研究課題

研究課題

医療シーズ探索プロジェクトでは、新しい治療法の開発を目指して臨床検体を用いた研究を行っている。研究対象は、主に胃癌である。臨床病理情報の附随した臨床検体を用いて、治療法選択に役立つバイオマーカーの開発を主なテーマとしている。

1.臨床検体を用いた癌細胞培養と治療効果予測

胃癌の治療は、手術の前に抗癌剤治療を実施する「 術前化学療法」が標準的治療法となっている。手術の適応にならないような大きな腫瘍でも、化学療法を施行して腫瘍サイズを小さくすることで手術できるようになる症例もある。一方、抗がん剤が効かない腫瘍も存在するので、治療前に抗がん剤の効果を予測できるようにすることは、治療成績の向上に大きく貢献しうる。
 
本プロジェクトでは、臨床検体(内視鏡生検検体)から癌細胞を培養し、抗がん剤の感受性試験を実施し、治療前に薬剤感受性を予測しようとしている。
 
癌細胞を培養のようす

培養中の癌細胞

2.患者検体を用いた網羅的発現タンパク解析

癌細胞の悪性度は症例ごとに異なり、治療への応答性はさまざまである。癌細胞のこのような性格を決定しているのはタンパク質である。転移や化学療法抵抗性を制御するがん関連タンパク質の異常がいくつも報告されているが、まだわからないことの方が多い。したがって、発現しているがん関連タンパク質をできるだけ多く網羅的に調べることで、抗がん剤の治療効果を予測したり、治療後の予後を予測したりできる。

本プロジェクトでは、生検検体に含まれる癌細胞が発現しているタンパク質を網羅的に調べることで、治療方針の決定に役立つバイオマーカーを開発しようとしている。

網羅的発現タンパク解析の流れ

3. がんのトランスレーショナルリサーチ

治療の過程で生じた疑問を基礎研究の技術で解決し、逆に基礎研究の成果を新しい治療法の開発につなげるという、基礎と臨床の連携体制を構築している。最新の研究技術を駆使して腫瘍細胞の分子の異常を網羅的に調べるために、大学、企業、病院など様々な組織と連携し、学際的に研究を進めている。転移や再発、治療抵抗性など、臨床上重要な現象の分子背景を調べるための研究技術は日々進化しており、10年前は不可能だった研究が、今では一般にできるようになった。革新的な新技術を活用して、臨床上の課題を解決することが現代のがん研究である。
 
本プロジェクトでは、基礎と臨床が連携することにより、臨床のアイデアと最新の研究技術を用いて医療現場に還元できる発見を目指している。

4. がんモデルの樹立と応用

抗がん剤の効果を評価したり、遺伝子やタンパク質の解析を行ったりするためには、細胞株や動物モデルなど、「がんモデル」が必須である。すなわち、臨床検体(腫瘍組織)から、生体内の腫瘍とよく似た特性をもつ細胞株やオルガノイドを樹立することが必要である。抗がん剤の開発においては、患者さんへの投与前にその効果や安全性を「がんモデル」を用いて検証する。網羅的解析で発見したバイオマーカーや治療標的の機能を検証するためにも必要である。

本プロジェクトでは、研究に必要な「がんモデル」の樹立と応用により、より効果的かつ副作用の少ない治療法や新しい検査技術の開発を進めている。