研究所長ごあいさつ

ごあいさつ

 当センターが2021年度から進めてきた5大事業(病院事業、研究事業、臨床研究管理事業、バイオバンク事業、がん対策推進事業)を推進するため、2022年度に研究所のリニューアルを行いました。さらなる事業強化のための再編として、2024年1月から臨床と基礎研究の架け橋になる病理医が研究所と兼務する形の分子病理分野を創設しました。がん組織を直接観察して診断業務を行う当センターの病理診断科は、全国でも比較的珍しい臓器担当制(各臓器専門の病理医によるがん診断)をとっております。従って、研究所では臓器別のがんの特性を患者さんのがん組織や細胞株などを用いて臨床病理学的・分子病理学的に解析して臨床に還元する研究が可能になります。加えて、近年のデジタル技術を駆使した深層学習に基づくAIを用いて、悪性度や生物学的態度を特徴づける病理形態学所見と腫瘍の肉眼所見、さらには画像所見との融合をも視野に入れた研究を行い、治療成績の向上を目指していきます。
 すでに当研究所には、患者さんの腫瘍組織から細胞株を樹立して、抗がん剤の腫瘍抑制効果検査や安全性を確認する医療シーズ探索プロジェクトや、がん細胞に見出される抗がん作用などの生理活性を持つ分子量1万未満のタンパク質(ペプチド)を包括的に調べ難治がんの診断や治療に役立つ手がかりを検索する腫瘍ペプチドミクスプロジェクトが存在しております。ここに、分子病理分野が加わることで、病理医が日常的に臨床-病理カンファレンスなどを通じて臨床医と共有するがん診療や治療に対する様々な問題点や課題が、革新的な研究アイデアとして研究所にもたらせられると期待されます。分子病理分野をゲートウェイにして、臨床医と当研究所の基礎研究者、さらには栃木県内および全国のアカデミアや企業との共同研究体制を強化し、栃木県で唯一の栃木キャンサーバイオバンクを有している強みを最大限に発揮したがん克服に向けた研究(トランスレーショナルリサーチ)に邁進してまいります。 

 このように、単にがんの治療を行うだけの施設ではなく、がん専門病院としての使命として、同じキャンパス内でがん研究を促進することで、当センターのビジョンである栃木県民のがんの死亡率の減少を目指し「最新の医療を県民に提供する」ことにより一層貢献できると考えています。

2024年4月
 
栃木県立がんセンター研究所
研究所長 尾澤 巖