ごあいさつ

バイオバンクセンター長 尾島 英知

バイオバンクセンター長 尾島 英知
日本人男性の2人に1人、女性の3人に1人はがんにかかる時代となっております。近年の医療技術と治療法の進歩により、いくつかのがんは治療に対してめざましい効果が期待できるようになってきました。しかし、依然としてがん患者の皆さんはもとより、がんを治療する臨床医、がんの克服を目指す研究者や製薬会社にとっては満足する段階には至っておりません。がんの克服のためには、まずはそれぞれのがんの特性を見極める必要があります。同じがんであっても、患者さんの人種、がん以外に罹患している疾患(基礎疾患)、食生活に至るまで、多くの背景因子ががん自体の特性に影響していると考えられているからです。したがって、患者さんの既往から血液検査データ・画像データといった詳細な情報と、クオリティーが担保された腫瘍部(がんの部分)および非腫瘍部(がんではない部分)の組織、これらに加え、治療に入られる前の血液や尿は、精密で俯瞰的ながん研究を実現するための強力なバイオリソースになると考えられています。当施設では、患者さんの善意(“自由な意思に基づく同意”である包括同意)に基づき、診断や治療に影響のない範囲でこれらの検体を蒐集しております。とくに大きな特徴として、腫瘍部、非腫瘍部の組織検体採取を病理診断科の臓器担当の病理医が行っている点が挙げられます。病理医は、日常的に腫瘍の肉眼所見、組織所見を詳細に観察して病理診断を行っており、さらにカンファレンスを通じた臨床的側面からの情報を得ることで、がんの特性を熟知している診療科ともいわれています。その病理医が患者さんから摘出された直後に臓器を外科医から受け取り、腫瘍部分の割面を作製し、病変の肉眼像を確認したのち写真撮影を行い、適切かつ病理診断に影響のない範囲で研究使用に最適と思われる部分から組織を採取しております。こうして採取した検体を様々な方法で保存することで、現時点で考えられる研究への使用に対応できます。さらに、写真撮影された腫瘍部の肉眼像、ホルマリン固定を経て病理診断のために作成されるホルマリン・パラフィンブロック(FFPEブロック)、薄切で得られる組織切片とその組織所見までの全ての情報が網羅的かつ一元的に保存・管理されています。したがって、当センターのバイオバンクに蓄積されている検体は、がん患者さんの背景疾患を含めた臨床データ、腫瘍の肉眼所見、組織所見といった様々なデータが紐づけされた検体ともいえます。治療に入る前の血液や尿といった検体もそろっていることから、研究から導かれたがんに関わる重要な分子やタンパクが見つかった場合、臨床応用(例えば、血液を用いた腫瘍マーカー)への検証といった立体的な研究へと発展させることも可能です。
一方で、がんの克服のためには、単一施設だけの力では不十分であり、栃木県はもとより全国の研究者、がん克服に前向きな企業(製薬会社など)と共同で行うことが、がん治療の進歩へとつながり、将来がんで苦しむ患者さんに、いち早く研究成果を届けることができると考えております。
栃木キャンサーバイオバンクの重要なミッションとして、がん克服のために強い志を持つ研究者(アカデミア組織)や企業に、患者さんの善意から得た上記のようなクオリティーの高い検体を、個人情報保護の下に垣根なく提供(頒布)しております。是非とも、がんで苦しむ患者さんに役立つ研究のためにご使用ください。
 

栃木県立がんセンター 理事長 尾澤 巖

地方独立行政法人栃木県立がんセンターでは、これまで様々な医療技術を用いた診療により、患者さんの生存率の向上に寄与して参りました。
しかし、肉腫などの希少がんや膵がんなど、まだまだ治癒の望めないがん腫が多数あるのが現実です。
治癒の望めないがん腫に対する地方がんセンターとしての当センターの役割は、
  1. 基礎研究者に対する手術や血液の検体や臨床情報の提供
  2. 製薬会社が行う創薬に対する協力(治験も含めた検体、臨床情報の提供)
  3. アカデミアの研究成果の臨床への応用(トランスレーショナルリサーチ)
  4. リキッドバイオプシーの検査体制確立のための検体の提供
  5. ゲノム解析
  6. 臨床試験
などが考えられます。今後急速に進歩すると考えられるがん研究及びその成果を臨床に応用することは大変重要であり、当センターが果たさなければならない役割であると考えています。  
栃木キャンサーバイオバンクセンターは上記の役割を効率的に果たす事を目的に設立されました。研究だけでなく、患者さんのがん治療に必要なゲノム検査にも利用できるように取り組んで参ります。
また当センター研究所での共同研究も可能です。がんセンターならではの詳細な臨床情報を付加した上での試料の提供が可能と考えていますので、ご興味のある研究者または企業の方は一度お問い合わせいただければと考えています。今後、徐々にがん腫も提供する試料も増やしていく予定ですのでよろしくご検討ください。

栃木県立がんセンター 理事長 尾澤 巖